『DApendulum』(コンピュータ音楽作品)解説
『DApendulum』 for Flute, Max/MSP & Objet - Kawai Tatsuto
(ディー・エー・ペンジュラム/河合達人)
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<概要>
デジタル機器に支配されている世の中に警鐘を鳴らそうと、ノートパソコンを揺さぶるオブジェの動きをきっかけに、奏でられるフルートの音が音響処理され音楽となり、その音を楽譜化しその場で初見演奏する、実験的な作品です。音大生ブログRankingに投票!
<パッチ、楽譜>
「DApendulum」パッチ集・参考データ
「DApendulum」楽譜
<システム構成>
・ハードウェア
Apple MacBook(MA255J/A, MacOSX10.4.9)…プログラムを動作させるパソコン
digidesign Mbox2…オーディオインターフェース
Primo TD-118…フルートの音を拾うマイク(Mic1端子へ)
SHURE SM58…スピーカの音を拾うマイク(Mic2端子へ)
iiyama TXA3311M…フルート奏者に譜面を提示するディスプレイ
YAMAHA MFC06…MIDIコントローラ(収録時はキーボードテンキーで代用)
SONY SMS-1P×2, Roland DS-8…音響処理した音を再生するスピーカ(DS-8が高音域の再生が苦手なので、SMS-1Pと併用し高音を担当させた。DS-8はS/PDIF接続、SMS-1Pはフォン接続)
・ソフトウェア
Max/MSP(Version5.0.2)
エクスターナルオブジェクト
「fiddle~」version1.2…ピッチ検出オブジェクト
「aka.wiiremote」version1.0B6-UB…Wiiリモコンデータ送受信オブジェクト(赤松正行氏制作)
Kousakuフォント(譜面作成ソフトFinaleシリーズ付属)…採譜プログラム「notes」で使用
・オブジェ
園芸用棒(2100mm)×3
Apple iBook G3(M6497)
任天堂Wiiリモコン(RVL-003)
携帯電話モックアップ(DoCoMo社機器、ホワイト)
バネ(12×1.20×300mm、ユニクロ)
輪ゴム、ビニールひも、黒布 など
<きっかけ>
Appleのノートパソコンに「緊急モーションセンサー」(=Sudden Motion Sensor…Apple製ノートパソコンMacBook、MacBookPro、2005年以降に発売されたPowerBook、iBook G4についている)という傾き検知センサーがついているのを知ったとき衝撃を受けました。その値の変化が大きいときにHDDの磁気ヘッドを避難させてクラッシュを防ぐという自己防衛安全装置なのですが、「人間が生み出したHDDの不完全さを補うためのセンサー」というなんとも滑稽なものだと思ったのです。
わざとそのセンサーがついているノートパソコンを揺らすことによって、自己防衛の為のセンサーがはき出す数値で、仕組まれたプログラムによって「音を生み出すこと」そして、「その音によって描かれた楽譜を演奏する」ことができれば、その音と機械の動きはコンピュータによって動いているこの世界への警鐘・ 揶揄になるだろう、という発想をしました。
<採譜プログラム「notes」パッチについて>
楽譜をリアルタイムに作成するプログラムが「notes」パッチです。以前より音と画像のインタラクティブな反応が面白いと思い頻繁に利用していた
「lcd」オブジェクトを用いてこれを実現することにしました。「lcd」オブジェクトに空白五線譜の画像(notes.jpg)を置き、楽譜作成ソフトFinaleの楽譜用フォントであるKousakuで文字として音符を書き込んでいくという仕組みにしました。今回作成したプログラムは、ピッチを
「fiddle~」オブジェクトで検知、リズムについてはもともと仕組まれたもの(『朧月夜』のリズム)、採譜するきっかけはオブジェの揺れが強い時と定義しました。
まず、検出したピッチ(今回はフルートのピッチ検出のため、Note Number 60〜89までを検出可能範囲とした)は「oct-change」パッチによってNote Number60(一点ハ)からの距離(0〜11)と、離れているオクターブ数(0〜3)に置き換えられます。その距離によってオクターブ内にある音が一般化出来るため、「collect」オブジェクトで指定された「臨時記号がつく場合」や「音符の位置の数値」を簡素化することが出来ます。音符の位置情報については、離れているオクターブ数を掛け合わせることによって、正しい位置数値を計算します。それらを「prepend set」オブジェクトによってmessageボックスにため込みます。そして、「trigger」オブジェクトを駆使しbangを出す順番を制御すること によって、楽譜に現れる加線・臨時記号・音符の順番を正しく表示することを可能としました。
14回ピッチ検出がなされると、採譜されたデータは画像として「notes」パッチがあるディレクトリ内に0.pict、1.pict…の順に名前が付けられ保存された後、lcdオブジェクトはクリアされ、また採譜が続けられます。パッチ集に同梱の0.pictと1.pictは、実際の演奏時に使用した楽譜データです。
<オブジェの意図>
コンピュータを揺らす方法を考えたとき、より「音楽的な揺らし方」のほうが面白いと思い、一見不可解に見えてもそこには規則がある物理現象であるバネを用いたオブジェをつくることにしました。バネの動きによってリズムを生み出すことが出来ると思ったからです。
園芸用の棒3本でテントをつくり、その頂点からバネをつるし、そこにiBookをつるします。なるべく揺れが減衰しないよう、堅いひもでつるしました。今回使ったiBookは予算の関係上、緊急モーションセンサー搭載のものではなくiBook G3を使用し、動きの検知にはWiiリモコンを利用することにしました。
輪ゴムでWiiリモコンをiBook本体に縛り付け、白い携帯電話を同じく縛り付けることによってWiiリモコンをカムフラージュしています。また、携帯電話を前面一列に並べ、一番身近なデジタル機器もつるしあげられている視覚的効果をねらいました。
<オブジェの揺れによって音を変調させるプログラムについて>
曲全体を通して、フルートの奏でる音を録音しながら、その直前に録音されたものをオブジェの動きに合わせて変調再生します。
メインパッチ「pendulum」にはWiiリモコンのデータを送受信するオブジェクト「aka.wiiremote」を置き、フルートの録音に 「record~ flute」オブジェクト、その再生に「groove~ flute」を置きました。「groove~ flute」から再生される音は、「modulation」パッチにより、FM合成またはAM合成されます。バネの上下方向がWiiリモコンのx軸になるように縛り付け、それぞれの変調パラメータを、x軸はAM合成のモジュレーションデプス、FM合成のキャリア周波数にし、y軸はFM合成のモジュレーショ ン周波数に、z軸はモジュレーションデプスにしました。また、x軸の数値で「groove~ flute」の再生スピードも変化させています。
Max/MSP4.6.3で制作したパッチ(拡張子mxb)と、演奏時利用したMax/MSP5.0.2で制作したパッチ(拡張子maxpat)が混在していますが問題ありません。
<曲の構成>
この曲は大きく3つ(A・B・C)に分けることができます。
冒頭〜22小節までのA部では、フルートの録音と変調再生をしていることを提示する部分です。13小節まではオブジェを揺らさないので、その前後でオブ
ジェの動きの意味がわかります。またオブジェを揺らしてからは、バネ上下往復一回を一拍として演奏します。最終的に奏でられるF
durの『朧月夜』をにおわせるようなピッチが、波のように低いところから高いところへ、高いところから低いところへと並びそれがひたすら続いていきま
す。
23〜38小節のB部では、パッチ「notes」による採譜が開始される部分です。ピッチが上がっては下がりという繰り返しなので、できあがる楽譜もそのようになります(パッチデータ集の「参考用プロット楽譜」ディレクトリの画像参照。演奏5回分の各楽譜であり、演奏するごとに毎回違うとはいえ、基本的なピッチの動き方はほとんど一緒なのがわかる)。また、38小節めに楽譜の画像を開き、フルート奏者に提示します。
39小節〜最後までのC部では、携帯電話のベルがサンプルされたサンプラーが遠くから鳴り出します。これは「modulation」パッチによる変調後の音を、ピッチ検出しそれをきっかけに自動的にサンプラーを動かすプログラム「bell」パッチにより発音しています。また、提示した楽譜をフルートで初見演奏し、その次に朧月夜のメロディーが流れ、波のようなピッチに戻り静かに消えていきます。
<「Digital」と「Analog」を揺れ動く振り子—pendulum—>
「デジタル」を表現するために、それに相反する「アナログ」を置く必要がありました。生楽器による演奏が必要なのはそのためです。楽器の中でも息を使っ
て奏でる楽器は、表情豊かに演奏することができるし、その息づかいは人間そのもの(息づかいが音楽になるというアナログ)であると思ったためフルートを使うことにしました。
フルートが奏でるメロディーも、アナログであるものにしようと思い、歌詞が日本の原風景(デジタルにしばられていないアナログな世界)である『朧月夜』を利用することにしました。
決まった法則にのっとってプロットしていくという「notes」パッチの行為は、音(波形)の「デジタル」化と似ています。このプログラムで生み出される楽譜はデジタルの象徴であり、それをアナログなフルートで奏でなおすことによって、その音たちは浄化されようとするけれども、しかしまたそれはデジタル
に録音され音響処理され続けるという、どうどうめぐりがそこにはあります。デジタルに囲まれた生活をしていてそれを当然のように思ってしまっている怖さがある、という自戒も込めた表現をしたかったのです。
<演奏履歴>
2008/7/22 Home Coming Concert "輪" 学生出演枠オーディション
2008/8/2 Home Coming Concert "輪"
2008/8/4,5 新潟大学オープンキャンパス
2008/8/6 収録演奏
2008/10/3 作曲専攻卒業試験中間発表会
※場所はいずれも、新潟大学教育学部音楽棟合唱ホール
<収録機材>
マイクロホン:SONY C-38B ×2
DATレコーダ:SONY DTC-55ES
ビデオカメラ:SONY DCR-PC350, SONY DCR-TRV300K, Victor GR-DV1
※DATをProTools(MBox2, S/PDIF接続)で取り込んだ音声と、固定カメラ3台の映像とを、FinalCutProで編集したものである。
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10/15 17:00追記
YouTubeに公開している『DApendulum』ですが、これを見た外国の方に興味を持っていただけたようで、こちらのブログ(MAKE: Blog: Made in Japan - 10/13/08)で紹介して頂いています。一番最後に載っています。せっかくなので、紹介していただいた文章を日本語訳します。
私はこのビデオに大変好奇心がわきました。河合達人による、フルートとMax/MSPと吊されたノートパソコンによる実験的な曲です。2分を回ったところで、右にいる人がコンピュータを揺らしはじめます。これにより、一種のテルミンのような影響を及ぼします(私が推測するに、これは「aka.bookmotion(=緊急モーションセンサーの数値をMax/MSP上に表示するエクスターナルオブジェクト)」オブジェクトで制御しているのでしょう)。私が好きな点は、揺らす人が楽譜をずっと見ているということです。どのような記譜がされているのでしょうか?おそらく、「ここでノートパソコンを揺らせ」と数小節の中に書かれているのでしょう。3分50秒頃、彼は楽譜をめくり、椅子に座ります。そして、この曲の一番素晴らしい部分が6分15秒に来ます。彼は立ち上がり、劇的にノートパソコンを抱きしめます。まるで曲の最後にシンバルを止める打楽器奏者のようです。オブジェの前列に並べられている白い物体はiPodか何かでしょうか?とても知りたいです。
こんなに詳しく説明していただいて、かなり感激しています。「aka.bookmotion」ではないか?という推測をしていただいているのに驚きました。この曲を作り始めるきっかけの「緊急モーションセンサー」の揶揄が伝わっていたということだからです。先方には拙い英語でコメントを送りました。改めてインターネットのワールドワイド性に感動しながら、以上追記でした。
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09/2/9
プロモーションビデオ「1or0, DorA?」を公開。こちら。
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