【教えたいシリーズ】MIDIとデジタルオーディオは何が違う?
芸術の秋と言いますが、この時期は演奏会が多くなります。思うに、日本の夏は湿気が多いので、楽器にとってよくないからなのかな、と勝手に想像しています。
さて今日は、「音」という物理現象から、コンピュータ音楽までを網羅したお話です。感想、質問などぜひお寄せ下さい。
10/11 Max/MSPとは?読むだけで使いたくなる解説
10/12 音楽史〜現代アート・現代音楽はなぜ生まれたか〜
10/13 MIDIとデジタルオーディオは何が違う?
10/14 「楽典」を知識としてではなく実感するために
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<音は「波」である>
「ピーポーピーポー…」とサイレンを鳴らす救急車が目の前を通り過ぎ、遠くなっていく瞬間に、その音はどんどん低くなっていきます。
音というのは不思議な、「波」の性質を持つ自然現象です。救急車の例は「ドップラー効果」という名前がついていて、波を性質をもつものに起こります。
波と波が重なり合うとき、その波の高さは足し算で計算できます。例えば、流れるプールで盛り上がった波と波がぶつかる所に居ると、ものすごく盛り上がる高い波になるのを想像できますよね。ということは…、盛り上がった波と、へこんだ波がぶつかると、どうなりますか?打ち消しあって、ほとんど水面は動かなくなります。
これを音で再現することが出来ます。ある音がスピーカーから鳴っているときに、別のスピーカーから、打ち消しあうような逆の波形の音を出すと、音が消えます。これは、実際、騒音対策などに利用されています。実感してもらうために、みなさん自身で体験できるようなプログラムを作りました。
このプログラムは「左右2つのスピーカーから、お互いを打ち消しあう波形の音を鳴らし、実際に音が消えるのを実感する」ためのものです。スピーカー2台が必要です。(ヘッドフォンなどの耳に直接音を入れる機器では体験できません)。
Max/MSPについては10/11の記事をご覧下さい。Max/MSPランタイムをインストールし(インストール済の場合はしなくてOK)、上のファイルをダウンロードします。ダウンロードしたファイルを展開し、[081013.maxpat]を開いてください。それでは、操作方法を説明します。
イ. (1)の[read]をクリックし、オーディオファイルを読み込みます。同梱の[081013.wav]でもいいですし、WAVファイルかAIFFファイルならお手持ちの物でもOKです。
ロ. (2)の赤色□の中をクリックし、×マークをつけます。これで、最初に読み込んだオーディオファイルが、左チャンネルから再生されます。
ハ. それでは、実験開始です。(3)の灰色□をクリックすることで、右チャンネルから打ち消し合う音を再生します。どうですか、音量が極端に小さくなったのがわかりますか?
ニ. 今度は(4)の灰色□をクリックして、×マークを消しましょう。これで、左チャンネルからの再生が止まります。すると、打ち消しあいがおこらなくなるので、また大きな音で聞こえます。(3)と(4)を交互につけたり消したりしてみましょう。
ホ. 音が出ない場合は、まずスピーカーがしっかりと接続されているかを確認してください。また、ボリュームコントロールなどで音量がミュート・最小になっていないか確認してください。それでも駄目な場合は、(5)をダブルクリックしてください。[DSP Status]という画面が出てきますので、[Driver]の欄をクリックし、適当なものに変更してみてください。
ヘ. (6)のつまみを動かすことで、ボリュームを変えられます。
同梱の[081013.wav]を読み込むと一番わかりやすいと思います。理論上はまったく音が聞こえなくなるはずですが、壁などに反射する音があるため、完全には音が消えません。しかし、音が痩せて小さくなるのは実感してもらえたと思います。
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<コンピュータは「数字」だけを扱う機械>
コンピュータで音楽を扱う話をする前に、コンピュータのことについて少しお話します。
ここで、ショックなお知らせです。実は、「コンピュータは”数字”だけを扱う機械です」。…不思議に思うことでしょう。「だって、こうやって文字を表示できるじゃない!」と言われそうです。
実は、この文字でさえコンピュータ内部では数字として扱っています。下の表をご覧下さい。
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | あ | い | う | え | お |
| 2 | か | き | く | け | こ |
| 3 | さ | し | す | せ | そ |
| 4 | た | ち | つ | て | と |
| ・ ・ ・ |
これは今、私が適当につくった表です。「あ」=「1,1」、「い」=「1,2」、「う」=「1,3」、…「て」=「4,4」、「と」=「4,5」というふうに数字に置き換えてみました。小学校の頃、友達同士でつくった暗号表みたいですね。
この表に従った場合、「さつえい」という文字は、コンピュータには「(3,1)(4,3)(1,4)(1,2)」と記憶されるのです。このように、コンピュータは、あらゆることについて、数字に置き換える表を持ち、数字だけを記憶します。
一見面倒くさそうですが、数字だけを扱うことで機械の構造が簡単になるので、コンピュータを作った人がそうしたのです。
では、「音」はどうやって表せばいいでしょうか。「文字」は簡単に表にすることができましたが、先ほど説明したとおり音楽は「波」なので、ちょっとやっかいです。
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<波形を数字で表す>
波を数字におきかえるために、まず、グラフで表します。
緑色の波形を、コンピュータが理解する「数字」にするために、以下のような表をつくります。横がx軸、縦がy軸。y軸の値は整数とし、近い方の数字をとります。
| x軸 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| y軸 | 0 | 2 | 3 | 4 | 4 | 4 | 3 | 2 | 0 | -1 | -3 | -4 | -4 | -4 | -3 | -2 | 0 |
コンピュータはこのように、波を数字に置き換えてたあと、
(0,0)(1,2)(2,3)(3,4)(4,4)(5,4)・・・
といった具合に記憶していくのです。
さて、ここで気づいてほしいことは、「波形を区切った」ということです。このような数字の置き換え方をすると「連続的」でなくなります。この非連続的であることを「デジタル」と言います。
さてここで、デジタルの「非連続である」ということがどういうことか、実例を挙げます。先ほど出来た表を見ながら、波形を作り直してみましょう。小学校でやったグラフの練習問題のように、点を書いてから、線で結びます。
線の結び方が少し特殊です。線は斜めに引かず、x軸方向に伸ばしてから、次の点へ行きます。これはパソコン内部での決まりです。
オレンジ色で示した波形は、もとの緑色の波形よりいびつになってしまいましたね。というより、ほとんど違いますね。区切り方がおおざっぱでしたからこうなりました。例えば、先ほどの2倍区切って表を作ったとします。まず、表が以下の通り。
| x | 0.0 | 0.5 | 1.0 | 1.5 | 2.0 | 2.5 | 3.0 | 3.5 | 4.0 | 4.5 | 5.0 | 5.5 | 6.0 | 6.5 | 7.0 | 7.5 | 8.0 | 8.5 | 〜 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| y | 0.0 | 1.0 | 2.0 | 2.5 | 3.0 | 3.5 | 4.0 | 4.0 | 4.0 | 4.0 | 3.5 | 3.5 | 3.0 | 2.0 | 1.5 | 0.5 | 0.0 | -0.5 |
| 〜 | 9.0 | 9.5 | 10.0 | 10.5 | 11.0 | 11.5 | 12.0 | 12.5 | 13.0 | 13.5 | 14.0 | 14.5 | 15.0 | 15.5 | 16.0 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| -1.5 | -2.0 | -3.0 | -3.5 | -3.5 | -4 | -4 | -4 | -3.5 | -3.5 | -3.0 | -2.5 | -1.5 | -1.0 | 0.0 |
この表から、波形を作り直してみると・・・

このようになります。まだいびつですが、緑色の波に近づいたのが分かると思います。これを限りなく多い回数で区切ることが出来れば、もとの波形とほぼ同じ物をつくることができます。
これではじめて、コンピュータで音を扱うことが出来るようになります。これを「デジタルオーディオ」と言います。
現在デジタルオーディオの標準的な音質である「CD」の音は、x軸方向に1秒あたり44,100回、y軸方向には65,536回区切った数字から生み出されている音波です。
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<音は波。では、音楽は?>
こうして、コンピュータで「音」を扱うことが出来るようになった、ということは「音楽」も扱うことができるようになったということです。なぜなら、「音楽」は「音」だから、「音楽」も「波」なのです。
ただ「音楽」には、「音」にはない性質があります。それは「楽譜がある」ということです。
楽譜は自然現象ではありません。だから、波ではありません。楽譜は、拍子・調号・演奏速度・音符・強弱などという情報が記されている「文字のようなもの」だと言って良いでしょう。楽譜を数字に置き換えて記憶したものをMIDIファイルと言います。
具体的に例を示してみましょう。それでは、以下のように「数字に置き換える」とりきめをしたとします。
「4分音符のミ」=「3,2」、「8分音符のラ」=「6,3」といった具合です。それでは、以下のような楽譜は、どのように数字に置き換えることが出来るでしょうか。
(5,1)(6,2)(5,3)(3,4)(2,4)
となりますね。もちろん、「楽譜」にはピッチと音価(=音の長さ)だけではなく、複合的な情報が含まれていますから、こんなに単純ではありませんが、これがMIDIのイメージです。(ちなみにMIDIはMusical Instrument Digital Interfaceの略で、訳せば「楽器のためのデジタルな規格」といったところです。)
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ここまでの説明で、「デジタルオーディオ」と「MIDI」が根本的に違うということを理解して頂けたでしょうか?デジタルオーディオは音波を数字にしたもの、MIDIは楽譜を数字にしたものです。
その違いによって、どのような特徴があるかを説明します。
デジタルオーディオは、記録する時間が長ければ長いほどデータが増えます。MIDIは音符が多いほど(楽譜情報が多いほど)データが増えます。デジタルオーディオは、CD音質の場合1秒で4万以上のデータになりますが、MIDIにおいて一秒あたりにそんなに楽譜情報はないので、MIDIファイルは大変軽いデータになります。
デジタルオーディオは波形なので、再生スピードを変えると、ピッチが変わってしまいます(2倍速で再生すると、オクターブ高い音で鳴ってしまう)。MIDIは楽譜情報なので、転調したりとか、音の間違いを修正することが簡単ですし、ピッチをかえずに再生スピードを変えることも簡単にできます。
MIDIは楽譜情報なので、「音源」と呼ばれる、あらかじめ用意された音がないと音として聞こえません。「音源」にもいろいろな種類があるので、再生環境によって、出てくる音が違います。デジタルオーディオは波形そのものなので、どこで再生しても同じ音です。
・・・などなど、挙げればきりがないのですが、それぞれに特徴があり、実際に身近なところで使われています。関連する単語を挙げてみましょう。
MIDI…カラオケ、携帯着メロ、エレクトーンのフロッピーディスク、電子ピアノ・電子ドラムなどの電子楽器
デジタルオーディオ…CD、MP3、MD、DVD、携帯着うた、USBオーディオ、S/PDIF接続、デジタル放送
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DTM(デスクトップミュージック)が広く受け入れられるようになった理由は、MIDIが普及したことが大きな要因です。パソコンが現在のように性能が良くなかった10年前、デジタルオーディオ処理はまだ大変な負担でした。MIDIは、先述のように「軽いデータですむ」点と、「編集の容易さ」により、楽曲制作に広く利用されるようになったのです。
今では、デジタルオーディオも簡単に編集できるほど高性能なパソコンが一般化しました。技術はさらなる発展をとげ、例えば、MIDIで操作するデジタルオーディオ音声合成ソフトウェア『初音ミク』や、DAW(Digital Audio Workstation)と呼ばれるMIDIとデジタルオーディオを統括したシステムが生まれ、それぞれが融合して区別が付かなくなってきています。
しかし、何事を勉強するにも、基本は大事です。この区別をしっかりと理解しDTM・コンピュータ音楽を扱う人が増えることを願います。音大生ブログRankingに投票!
明日は”「楽典」を知識としてではなく実感するために”と題して、効率よい楽典の勉強法について書きたいと思います。ようやく本家サイトの「楽語ゴロ」について言及できます…!笑 お楽しみに
河合達人
この解説は、「MIDI」と「デジタルオーディオ」を着眼点としましたが、「デジタル」について知ってもらいたいという思いで書きました。デジタルという言葉を説明するとき「0と1の2進数の世界」という言葉を用いることが多いですが、あえてそれを伏せて説明してみました。
アナログもデジタルも、「何かに置き換える」行為は同じですが、アナログは連続的なのに対し、デジタルは非連続的だということと、デジタルは「数字」に置き換えて表す(=最終的には0と1の2進数で表すのですが)ということが、印象的に残れば嬉しいです。
また、説明をする際、用語を必要以上に出さないようもにしました。音波のデジタル化は「PCM(パルス・コード・モジュレーション)」という名前がついていますし、DTMをする人はよく聞くであろうMIDIについての用語「ノート・ナンバー」「デュレーション」などといった言葉もあえて使わず概念のみを伝えたいと思いました。
MIDIやDTMに興味を持たれた方は、あなたの周りでDTMをやっている人のところへ遊びに行きましょう。そして操作をただ見るだけで、大変勉強になります。本やインターネットで調べることも重要ですが、実際を見て「なぜ、そんな仕組みになっているのか」、「なぜ、そのような操作をするのか」を考えることで理解が深まるのです。(10/14 河合達人記す)
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